2012.11.01
学校医のお仕事
高校の学校医をしております。
高校3年生は「麻疹風疹ワクチン(MRワクチン)」接種の第4期にあたります。
MRワクチンは接種せねばならないワクチンですが、どうしてもズルズルと接種しないでいる生徒さんがおり、昨年にひきつづき接種の必要性を理解して頂くための講義に行って参りました。
MRワクチン、麻疹(はしか)についてちょっぴり解説を。
そもそもMRワクチンの接種は1回でした。1回打てば終生免疫がつくと考えられていたからです。
ところが1回だけでは、免疫がつかない人、免疫がついても免疫力が低下してしまう人、打たなかった人が出ます。
先進国では2回接種が常識で、3回接種しているところもあるそうです。そこで平成18年に日本も遅ればせながら2回接種となりました。1歳時(1期)と小学校就学前(2期)です。
ところがその時点でその時期を過ぎている子供たちがいます。
当初は放置(?)だったようですが、平成19年に10~20代の若者に麻疹が流行し社会問題となったため、平成20年から第3期(中学1年)、第4期(高校3年)を設定し、1回しか接種機会がなかった子供たちに2回目の接種を行うこととなったわけです。この処置は平成24年度で終了なので、今年度が最後となります。
未接種な生徒さんの多くが、「時間がない」などを理由にしていますが、多くは「接種などしてもせんでもええんじゃないの?」と思っているんだと思います。
ところが麻疹は大変恐い病気です。
10人に4人は入院し、1000人に1人は肺炎や脳炎で死亡すると言われています。脳炎になると寝たきりになるなどの後遺症が残る場合もあります。今年のWHO(世界保健機構)の発表でも、「世界の麻疹による死者がワクチンの普及により2000年の約53万5千人から、2010年には13万9千人へと約74%減少した」と言っています。これは“死者”の人数ですから本当に恐い病気です。発展途上国では当然、栄養問題や医療体制の問題があるので日本とは比較しにくいですが、“特効薬”がないことに関しては全世界共通です。
そして、麻疹はめちゃくちゃ感染しやすい(うつりやすい、うつしやすい)病気です。
これからの季節流行するインフルエンザ。皆さんも流行に敏感になっていると思いますが、インフルエンザ1人の患者からうつる人数は2~3人と言われていますが、麻疹は12~18人と言われています!
麻疹は最初、咳、鼻水、目やに、熱などの症状から始まります。この時期を「カタル期」といいます。その後、口腔内にプツプツと白い斑点が出現し(コプリック斑)、その後全身に発疹が拡がります(発疹期)。発疹が出る前には一度下がりかけた熱が再び上がり4~5日続きます。感染力が大きいのはカタル期から発疹期初期で、発疹が出る前は普通の風邪と見分けがつきにくいので、あっという間に周囲にうつしてしまう可能性があるわけです。
こんなに恐い麻疹ですが、ワクチンがめちゃくちゃ効く!んです。
インフルエンザワクチンはそもそも“小結級”。そこそこ勝つけど、連勝もそんなにないという・・・(この時期、こんなこと書いてワクチン接種に来てもらえなくなると収益が落ちて困りますが(笑)) ところが麻疹ワクチンは“横綱級”!免疫さえ獲得できればほぼ完璧です。
その証拠にアメリカ、カナダ、韓国は麻疹撲滅宣言(自国で麻疹がなくなった)をしています。
一方、日本は未だ“麻疹輸出国”と言われ迷惑がられています。2007年にカナダに修学旅行に行った高校生が、カナダで麻疹を発症し、一緒に行った同級生、教師すべてがしばらくホテルに隔離されたという問題がありました。
麻疹はそういう恐~い病気で、2回目の接種を受けておくことはとっても重要なんです。
国際問題になることだってありますし、今後、進学して学校や病院実習があるような人、海外留学をする人などは未接種では許されません。
そのようなことを話し、必要性を訴えて参りました。
これで接種率が限りなく100%に近づけばいいなと思っています。