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院長日記

2020.05.15

緊急事態宣言解除に伴う高山義浩先生の質疑応答内容

39県の緊急事態宣言解除に伴い、沖縄県立中部病院の高山義浩先生が、メディア等からの質問に対し回答された内容をFaceBookにあげられています。皆さんの疑問も少し解消されるかもしれません。
心に留めたい言葉は、「私たちは、「新型コロナウイルスのある世界で暮らす」ことを理解しなければなりません。以前のような生活様式に戻すことはできないのです。新しい暮らし方を私たちは見出していく必要があります。(中略)めざすのは、ウイルスが持ち込まれても、広がることができず、自然に消えていく地域づくりです。」です。
以下、本文です。
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今日は、39県で緊急事態宣言が解除されたり、沖縄県では14日連続で感染者ゼロを確認したりと、各方面のメディア関係者の方々よりお電話いただきました。文化放送のラジオ番組でも、少しだけ解説させていただきました。ありがとうございました。
以下、質疑応答より・・・
―― 緊急事態宣言を解除する基準として、「直近1週間の新規感染者数が10万人当たり0.5人以下」としたが、どう思うか?
明確な基準を示せたのは良かったと思います。人権制限に関わるものですから、市民にも分かりやすいものがよいでしょう。
なお、緊急事態宣言を解除する基準とは、事業者に休業を要請したり、指示をしたり、外出自粛を要請したりといった知事への強い権限を解除する基準です。解除されたからと言って、自治体は活動再開しなければならないわけではありません。それは都道府県において決めるべきことです。
―― 緊急事態宣言の再指定の考え方はどうなるか?
分かりやすい指標がよいと思います。倍加時間や実効再生産数などが議論されているようですが、たしかに疫学的な意義はあるのですが、やっぱり分かりにくいですね。
なお、緊急事態宣言が出てから、すぐに都道府県で活動自粛の方針を示すことは難しく、ある程度の時間的余裕が必要です。これが4月の反省だったのではないでしょうか?
繰り返しますが、緊急事態宣言とは、政府が知事に権限を与えるものであって、その権限を行使するかは知事の裁量です。だとすれば、少し早めに権限を与える考え方があってもよいと思います。もちろん、人権にかかわるものなので、むやみに乱発すべきではないのですが・・・。
―― 都道府県で、ふたたび活動自粛とする基準はどうなるか?
流行の収束は、「感染者がいない」という意味では単純で、活動再開の指標を作ることは容易です。ゼロが続くというデジタルな考え方でよいからです。
けれども、流行の立ち上がりは多様なもので、数人の患者を確認したときに、それが夜の街なのか、学校なのか、高齢者施設なのか、あるいは孤発例が分散しているのか、まったく意味が異なります。
つまり、かなりアナログな判断が求められ、数値による指標だけでは判断できません。「どのように」という様態を読む必要があるということです。社会的インパクトも大きいので、医療のみならず総合的な観点による政治決断になると思ってます。
―― 政府の専門家会議が、都道府県を3つのグループに分けて、それぞれの地域で取り組むべき方針などを提案しているが、どう思うか?
ご心配なのは分かりますが、ちょっと地方自治に対して踏み込みすぎですね。外出だとか、出勤だとか、暮らしに関することは、地域の特性に応じて、住民との話し合いのなかで決めていくべきことじゃないですか?
すでに地域ごとに話し合っているのに、東京からの目線で提言されると、地方では住民が混乱してしまうリスクがあるのです。地域の暮らしは多様です。そのことを尊重して、専門家会議はデータの分析や普遍的な課題の提示に留めていただければと思います。
―― 第2波への備えは、なにが求められるか?
私たちは、「新型コロナウイルスのある世界で暮らす」ことを理解しなければなりません。以前のような生活様式に戻すことはできないのです。新しい暮らし方を私たちは見出していく必要があります。
沖縄県における4月の流行の封じ込めは、いろんなものを犠牲にして達成したものでした。これと同じようなやり方では、おそらく・・・ 第2波、第3波は乗り越えられないと感じています。持続可能性がないからです。
一般家庭、学校や企業、観光、行政それぞれに、どのような暮らし方、働き方がよいのか考えていく必要があります。私たち専門家はアドバイスをすることを惜しみません。ただ、答えは一様ではないでしょう。4月の経験をもとに、それぞれに考えてください。めざすのは、ウイルスが持ち込まれても、広がることができず、自然に消えていく地域づくりです。
それでも流行してしまうことは想定しておく必要があります。そのときは、なるべく早期に捕捉し、可能ならクラスター対策で封じ込めます。さらに広がってしまったときは、爆発的流行を回避するべく外出自粛を呼びかけます。病院、行政、そして住民が一緒になって、やるべきことを地道にやるしかありません。
―― PCR検査は拡充すべきか?
必要な患者に対する検査ができていないのなら、当然、もっと検査体制を拡充すべきです。ただし、沖縄県では、1日に500件程度は県内の検査機関だけで対応できるレベルに拡充されています。
いまの課題は、検査体制の拡充というよりは、渡航歴がある方や渡航歴のある方との接触歴がある方が症状を認めたときなど、疑わしい方について、できるだけ早期に検査を受けていただくよう、住民への周知を徹底していくことだと考えています。
―― 無症候者も含めて徹底して検査を実施すべきとの意見もあるが、どうか?
様々な意見が出ていますね。いずれも貴重な意見ですが、こうした方法論ではなく、戦略のすり合わせが求められていると思います。徹底的に検査を行うべきとしている人は、韓国や台湾、あるいはニュージーランドが目指しているように、ウイルスを封じ込めることを提唱されているのでしょう。
一方で、ある程度の流行は許容していて、死亡者を減らすことを主たる目標と考えている人もいます。実のところ、この考え方に日本も近く、地域単位で流行規模を見計らないながら、社会的介入の強度を変更する方針を示しています。この場合、PCR検査とは、流行を捉えるサンプリング調査としての役割と重症者の早期診断とに力点が置かれます。
こうした、どの戦略を取るかの議論を詰めぬまま、PCR検査の方法を議論していてもすれ違いのままじゃないかと思います。
―― PCR検査の感度が70%という見方もある。全例やっても見逃すだろう。
それはあります。常に検査には限界があるもの。ただ、感度を上げたければ、ウィルス量(コピー/アッセイ)のカットオフ値を下げればよいとも言えます。それだけ偽陽性が増えるリスクはあります・・・
定量的なPCR検査については、感度とは固定されているのではなく、どこで折り合いをつけるかということだと思います。
なお、多くの医療機関が行政検査から民間検査へと移行しようとしていますが、提出先が、どのキットを採用しているかは確認しておいた方がいいでしょう。たとえば、島津のキットであれば、かなり感度は高いと認識しています。このため、患者を効率的に発見できる可能性があるんですが、退院の判断には不向きですよね。感度がいいので退院できなくなるので・・・。また、特異度は行政検査よりも低い可能性があり、ほとんど流行していない中で検査対象を拡大すると、真の感染者以上に偽陽性者を抱えることになるかもしれません。
ともあれ、徹底して検査して感染者を見逃したくないのなら、たとえば、キアゲンのキットを用いて定量検査を実施して、かつカットオフ値を下げればいいです。または、定性的で感度の良さそうな島津のキットを使えばいいです。でも、抱え込む偽陽性をどうするか考えてから始めた方がいいでしょう。もちろん、それでも捕捉できない感染者がいることから目をそらしてはなりません。
―― PCR検査については、タレントや政治家も巻き込んで議論が過熱している。
専門知識もないのに専門的な持論を展開する人は、知識がないので自らの間違いに気づくことができません。とくに、自分のことを優秀だと誤って認識している人は、専門外のことにも自信をもって発言してしまいます。これをダニング・クルーガー効果(※)といいます。

※ダニング=クルーガー効果(Dunning–Kruger effect)とは、能力の低い人物が自らの容姿や発言・行動などについて、実際よりも高い評価を行ってしまう優越の錯覚を生み出す認知バイアス。この現象は、人間が自分自身の不適格性を認識すること(メタ認知)ができないことによって生じる。1999年にこの効果を定義したコーネル大学のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーは、「優越の錯覚を生み出す認知バイアスは、能力の高い人物の場合は外部(=他人)に対する過小評価に起因している。一方で、能力の低い人物の場合は内部(=自身)に対する過大評価に起因している。」と述べている。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
*わかりやすく言うと、私(小野)の学生時代のようにテスト勉強で「わかった!万全!」とテストに臨んで惨敗(涙)するという・・・能力の低いものは自分を過大評価してしまう・・・恥