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院長日記

2020.06.25

高山義弘先生の「イベントにおける感染対策」

都道府県をまたいでの移動も緩和されました。プロ野球も開幕し、様々なイベントも試行錯誤の中行われるようになりました。
僕ら医療者は相変わらず大した武器がないまま、新型コロナのゲリラ戦の中にあります。
東京での感染者数が50人を越えました。堤防が再び決壊し、第2波となっていくのでしょうか・・・
沖縄県立中部病院感染症内科の高山義弘先生が、「イベントにおける感染対策」について、FaceBookならびにYahoo!ニュースに投稿された記事です。
当院もライブラリイベントを停止したままです。
「何をゴールとしているのかを明確にすること」で、「リスクを正しく認識できる」
高山先生も本文中に書かれているように、我々は今までもインフルエンザやノロなどの感染症リスクを頭に置きながらもイベントを開催し、楽しんでいました。
運営、参加者双方が、新型コロナのリスクを正しく認識し、感染防御を心がけ、了解した者がイベントを開催し、参加する・・・
これがひとまずは新型コロナのいる世界でのイベント開催の始め方なんだろうと思います。
以下、本文です。
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イベントにおける感染対策 その特性に応じた考え方
高山義弘│沖縄県立中部病院感染症内科/日本医師会総合政策研究機構 6/22(月)

先日、これからのイベント開催について検討する会議に出席いたしました。クラシック、歌舞伎、オーケストラ、音楽ライブなどなど、様々な分野の関係者と意見交換させていただきました。どのようにイベントを開催してゆけばよいのか、真剣に悩まれている様子が伝わってきました。
新型コロナのある世界において、科学的にどうかというだけでは、解決にはならないと強く感じました。科学はリスクや解決策を伝えますが、それをどこまで許容するかを決めるのは、私たちの価値観なのです。
以下、主な質問内容と私なりの回答です。
●大規模イベントにおける感染対策はどう考えればよい?
まず、大前提として、最善の感染対策というのは人が集まらないことなんです。ただ、やっぱり私たちが生きていく以上は、そうしたイベントが必要なんだと思います。
日本では、4月にロックダウンに近いことが行われたわけですが、今後、これを緩めていくためには、どのような場所で、どのような行為が、どのような人たちによって、どれくらいの時間にわたって行われるかを分けて考えていく必要があると思います。
感染対策は論理的にやらないと、的外れで負担ばかり増していきます。むやみやたらに対策を行っていて、プライオリティが見えなくなっている現場を見かけることがあります。ほとんど意味のない感染対策に力を入れすぎて、やるべき感染対策が疎かになっていることも、しばしば見かけます。
イベントの特性を認識することが大切です。高齢者などハイリスク者が集まるのか? みんなで歌ったりするのか? コンタクトスポーツをするのか? アスリートと観衆の距離はどうか? 単に人が集まるというだけでなく、その特性に応じて対策のとりかたを検討したり、あるいは自粛するかどうかを判断する必要があります。
基本的には、県をまたいで参加者が集まるイベントは、ウイルスが持ち込まれるリスクが高いと考えてください。同じイベント内容でも、参加する地域を限定しながら、小規模に複数回で開催する方が安全ではあります。たとえば、高校野球の甲子園大会はハイリスクですが、地方大会はリスクは高くはないと考えられます。あくまで確率論ですが…。
●マスクやソーシャル・ディスタンス、室内換気など様々な対策があって、プライオリティが見えにくい。
感染対策とは、経路別に考えることが大切です。新型コロナについては、飛沫感染、エアロゾル感染、そして接触感染ということです。
感染者がくしゃみをしたり、咳をしたり、おそらく話をするだけでも、感染力のある飛沫が発生しています。飛沫感染を防止するためには、マスクの着用が極めて重要です。何らかの理由でマスクが着用できないのであれば、物理的距離を維持する必要があります。具体的には2メートル以上の距離をとることです。
飛沫は2メートルまで到達するまでに、乾燥して感染性を失うとされます。ただし、これは湿度や気温などの環境因子によって変化します。また、新型コロナウイルスは、密室で大量のエアロゾルが発生する状況では、離れた場所にいても感染しうると考えられています。それが、どのような状況かというのは、いまだ不明瞭なのですが、激しい咳嗽、大声で歌うといったことは高いリスクだと考えられます。また、酒を飲んで話をすることもどうやらリスクのようです。
飛沫のほとんどが鼻腔や咽頭などの上気道に付着しますが、エアロゾルでは気管や肺にまで達することができます。インフルエンザと比して、ウイルス性肺炎を発症しやすい新型コロナでは、エアロゾルの発生がリスクとされる所以だと考えられます。
マスクや物理的距離をとることにより、エアロゾル感染を減らすだろうと思いますが、完全には防ぎきれません。やはり、エアロゾルの環境中濃度を高めないことが大切です。つまり、密室にしないということですね。あと、適切な換気を行うこと、風の流れを作ってエアロゾル発生地点の風下にいないことなどが重要です。もちろん、エアロゾルが多く発生するような行為を行わないことが一番です。
飛沫やエアロゾル以上に、効率的に感染が生じてしまうのが接触による感染です。感染者が触れた可能性がある場所を適切に消毒することは、マスクよりも重要な感染対策でしょう。もし、不特定多数があちこちを触るようなイベントならば、たとえば遊園地などを想起しますが、こういう場所では、マスクをつけることよりも環境消毒が極めて重要だと考えられます。
―― 音楽イベントでは、エアロゾル感染が起きるか? どう対策すべきか?
エアロゾル感染を防ぐには、換気すること、風の流れを作ることが大切です。とくに、観客も含めて大声を出すようなイベントでは要注意です。野外イベントにできるものは、できるだけ野外でやったほうがいいです。
なお、いつも観客が大声を出しているようなイベントなら、それをやめさせるのは困難だと私は思っています。とくにアルコールが入れば… ですね。破綻することが自明の対策に拘泥せず、別の方法を考えましょう。
たとえば、サザンのライブで観客が歌わないなんて、それはありえないですから、当面は野外でやるしかないのかもしれません。しかも、風が比較的強いビーチサイドでやっていただければと。
合唱団が参加するイベントでは、何を目標とするかによって感染対策の取りようが変わります。不特定多数である観客をリスクにさらさないのであれば、合唱団から客席に風の流れを作らないような制御を考えていただければと思います。
一方、団員同士の感染を防ぐのであれば、相互に衝立てをしたり、マスクをつけて歌わせたりということになります。でも、現実的ではないでしょうね。やはり、その場での感染対策ではなく、イベント前2週間の感染予防を徹底することになるでしょう。可能ならば、自己隔離になると思います。もちろん、そこに目標を設定するのなら… ですよ。
あと、あまりお勧めしたくないのですが、イベント直前にPCR検査を行うことで、感染の有無は言えなくとも、ウイルス量が少ないことは言えるかもしれません。参考までに。
●エアロゾル感染のリスクがあるかどうか、イベントごとに判断することが難しい。
基本的には、大規模クラスターの事例を収集するのが良いと思います。実験室におけるエビデンスも大切ですが、私たち感染症医は現実空間での事実を重視しながら対策を更新しています。
屋形船、ライブハウスの事例から私たちは多くを学びました。韓国の宗教施設の例も重要な学びがありました。そうした国内外の事例を収集することが、極めて重要だと私は思います。
そして、今後、さまざまなイベントを、私たちはおそるおそる再開していくわけですが、そこでのアウトブレイクを見逃さないことが大切です。誰がそこにいて、何をしていた人が感染したかを正しく把握できる体制をとることです。イベントをやれば感染が起こりうるという前提で、見逃さない体制をとり、そして、それを学びとして次に活かしていくことが必要です。
●イベントをやれば感染は避けられないのか? 防ぐことを対策の目標としたい。
感染対策のゴールを明確にすることが大切です。防ぐことを目標としながら、防げるだけの対策をしていなければ、それはむしろ危険です。現実的な目標をかかげ、それゆえにリスクを直視すべきです。
たとえば、沖縄県では観光を再開しますが、ウイルスを持ち込ませないことは目標となりません。持ち込まれることはあっても、地域で広げないための対策を取ることになります。観光の従業員は感染することはあるかもしれませんが、地元の人には広げないということが重要です。とくに、沖縄の高齢者を守っていくことを最終防衛ラインとしています。
このように、何をゴールとしているのかを明確にすることで、参加する人たち、あるいは運営スタッフに対しても、リスクを正しく認識していただくことができます。そして、そのリスクを減らすべく、それぞれに感染防御を心掛けながら、イベントに参加いただけば良いのではないですか?
私自身は、リスクのないイベントはないと思ってます。人が集まるところには、新型コロナに限らず、インフルエンザやノロウイルスなど感染症のリスクがあります。それでも、私たちは人間ですから、集まってイベントを開催するのです。究極的には、そういうリスクコミュニケーションが求められていると思います。